「刺繍屋与太郎」を支えるものたち。
FILE6 新しい部屋
お道具を整理する背の高い棚を入れて、
新しい部屋もようやく刺繍屋の住処らしくなりました。
これから少しずつ、針を持つ日常を取り戻します。
FILE5 刺繍針
日本刺繍用の針の穴は、きれいな卵形。
手づくりゆえの美しさです。
手作業で日本刺繍の針を製作する職人さんは、もう
日本で1人になったとか耳にして久しいのだけれど、
いつかはこの針、手に入らなくなるのでしょうか。
今までのところ、刺繍針が折れるのは5年に1度くらいのこと。
手持ちの針で生涯間に合いそうです。
針といえば。私の好きな自由律の俳句をひとつ。
針 の 穴 の 青 空 に 糸 を 通 す 尾崎放哉
FILE4 上模様付け
刺繍した上に、さらに模様をおくときに使う道具です。
右は摺込刷毛。
毛先が面状に揃っていて、垂直に立てて使います。
左は粒子の細かなパウダー。
ずいぶん昔の海外土産。
使い方は、
まず模様を紙に描いて、線上に針でプスプス穴をあけていきます。
その穴開き紙を刺繍面の上に置き、刷毛でパウダーを摺り込めば、
模様が現れます。この様子は、『HowToMake』 CHAPTER3にて。
粉は針の上げ下ろしの振動で散ってゆくので、跡が残らず
とても便利な方法です。
FILE3 色鉛筆
刺繍の配色を考えるとき、小さな作品では
生地の上に糸を並べながら決めるのですが、
額や色紙など色をたくさん使う場合は、いちど下絵に色を塗ってみます。
そのとき使うのが、色鉛筆。
12色セットから始まって少しずつ買い足して行くうちに、
気がつけば200色を超えました。
同じ色名でもメーカーごとに随分違う色合いなので、
見つければどれも手元に置きたくなってしまう。
これは、もう、制作のためというよりも、
「色を所有したい」という欲望の為せる業。
スカーレット・オハラの SCARLET も、
忘れな草の花の色 FORGET・ME・NOT・BLUE も、
一本ずつ眺めていれば心満たされて、
配色を考えるために使うのはいつのことやら。
さてお仕事本番に使う刺繍糸の方は、色名も色番もない世界。
糸箱の中身は、もはや数え切れません。
FILE2 『日本刺繍』 秋山光男
数ある刺繍の技法書の中でも、古典と呼べるものではないでしょうか。
丁寧な言葉で、下準備から繍い方まで、
技術を後世に伝えおこうという意志の詰まった一冊です。
基本に立ち返るべく、ときおり読み直してみます。
数年前に古本市で見つけて大喜び、以来座右の書となったのですが、
美品ながら前の持ち主のお名前入り。
なぜ手放されたのかと、巻末を見るたびに考えてしまいます。
FILE1 はさみ
いわゆる糸切りばさみです。
作業中何度も手にするものなので、使い心地が第一。
これは京都・堀川三条の刃物屋さん「重春」さんのもの。
糸切りばさみはいろいろなタイプが出回っていますが、
これほど刃先が細く、薄いものはお目にかかりません。
この刃先ゆえに、糸を布地のきわから切れるのです。
全体の姿のスマートさが、また独特に美しい。
一日の終わりに布で空拭きをして、切れ味と輝きを保っています。